今ほど医療が発達していない時代の人たちは、腰痛になったら動くこともできず、「まさに生き死にの問題だっただろうな」とよく考えたことがあります。
私自身が腰痛で動けない時期があったので、非常に実感を伴って、昔の時代の人々の腰痛について思いを巡らせたわけです。
しかし、その後、いろいろと腰痛について学び、意外なことが分かりました。昔と今では、生活様式も著しく変化しています。
実は、そのあたりを探っていくと、腰痛になる原因も浮き彫りになってくるのです。
腰痛とは、現代病なのか?
腰痛は現代の国民病とまで呼ばれています。厚生労働省の発表によると、腰痛持ちの人は全国で約2,800万人もいて、これは国民の約4人に1人に相当します。
これを聞いて、私が最初に疑問に思ったのは、「腰痛とは、現代病なのか?」ということでした。なぜならば、昔の人のほうが、明らかに腰に負担の掛かる作業が多かったと思うからです。
昔は農作業が中心でしたよね。でも、今のようにトラクターや便利な農機具などありません。
人の労力だけで畑を耕したり、田んぼに一本一本、手作業で稲を植えたり、無数に生えてくる雑草を刈ったり、腰に大きな負担の掛かる作業をしていたわけです。
子どもや女性だって楽はできません。洗濯機などない時代ですから、洗濯物は腰を折り曲げた格好で、ゴシゴシとタライの中で洗っていました。
お風呂は薪で沸かしていましたから、斧で木を割って、大量の薪も作らなければなりません。これは大人でも重労働ですが、子どもでもこのような仕事を手伝っていたわけです。
土に触れる機会すら滅多にない現代人が、もしも今日から昔の人と同じ暮らしを始めたら、三日も経たずに腰痛になってしまうのではないでしょうか?
しかし、昔の人だって同じ人間です。頑強な体を持つスポーツ選手でも腰痛になるのですから、いくら体力があっても腰痛は避けられないでしょう。
「昔の人は、腰痛になったらどうしていたのだろう?」と、疑問に思いますよね?
今のように病院も充実しておらず、痛み止めの薬などもないですから、動けなくなった途端に、野垂れ死ぬしかなかったのでしょうか?
昔の人は腰痛にならなかった!
当時の私は重度の腰痛を抱えており、朝から晩まで寝床で過ごしていました。一日中やることがないので(笑)、先ほど書いたようなことを、頭の中であれこれと考えたわけです。
そして我が身のように置き換えて、「昔の人は、腰痛になったら、さぞかし辛かっただろうな…」と哀れにも思いました。
ところが、その後になって調べてみたら、意外なことが分かりました。江戸時代には腰痛という概念すらなかったようなのです。「えっ!」と、素直に驚きました。
「お奉行様が、腰痛に悩まされていた」とか、「権兵衛が農作業で、ぎっくり腰になった」とか、腰痛に関して多くの資料が残っていても良さそうですよね?
江戸時代の生活は、殿様から庶民に至るまで詳細に分かっているはずですが、腰痛については、ほとんど文献が見当たらないようなのです。
江戸時代がそうであるならば、室町時代や鎌倉時代、奈良時代まで遡ってみても、変わらない状況だと思います。
昔は、現代のように腰痛を抱えている人はいなかった!という結論になりそうなのですが、それは何故なのでしょうか?
昔の人と、現代人の違いが明らかになれば、腰痛の原因も見えてきます。
腰痛の原因は、筋力の低下や体の老化ではない
ネットで調べてみると、昔は電車や車もなく、何をするにも人力で作業をしていたので人々の足腰が強く、そのために腰痛にならなかったという見解が多いようです。
しかし、この見解によると、「筋力の低下=腰痛」になってしまいますよね?
筋肉の低下による腰痛も否定はしませんが、実際には、体を鍛えているスポーツ選手もよく腰痛になっています。実際に治療院などに行くと、筋骨隆々の人もいたりします。
なので、これだけでは納得できる答になっていないと思います。
また、現代は高齢化社会なので腰痛患者が増えた、という見解もあります。この見解は「老化=腰痛」の図式ですね。
歳を取れば背中も曲がってくるので、そうした要因もないとは言いません。でも、背中が曲がっているお婆さんでも、腰痛を抱えていない人はいます。
現代では、十代の若い人でも数多く腰痛になっています。このため高齢化社会で腰痛患者が増えたという見解も、「なるほど!」と完全に納得するまでには至りません。
そこでいろいろと思案してみた結果、ある結論に辿り着きました。
昔の人は絶えず体を動かしていた
電話も携帯もなかった時代には、何か伝えたいことがあったら、歩いて出向かなくてはなりません。
今は隣の家の奥さんにも電話で用件を伝えます。同じ家の中にいるのに、ちょっと呼びに行くのも面倒くさがって、家族の携帯を鳴らしたりもします。昔では考えられませんね。
それほど昔の話ではなくても、私が子どもの頃にはテレビの番組を変えるにも、いちいち立ち上がって、ガチャガチャとチャンネルをひねらなければなりませんでした。
若い人は分からないと思いますが、昔のテレビは手動なのです。今のように、寝ながらリモコンで操作などできませんでした。
また、今はテーブルやベッドが置きっぱなしの家が多いですよね?
昔はご飯の度にお膳を出して支度し、寝る時には布団を敷いて、朝には押し入れの中に畳むという、布団の上げ下ろしをしていました。
昔の人は、何をするにも、ちょこまかと絶えず動き続けていたと思うのです。
現代人のように、椅子やソファなどに座り続けているという生活習慣が、昔にはなかったのではないでしょうか?
特にここ二十数年の間では、一般家庭にもパソコンが普及して、現代人を椅子に縛り付けるようになりました。近年ではスマホの登場によって、絶えずうつむいているような猫背の姿勢も助長させています。
そう考えると、「現代人は動かないことで腰痛になっているのではないか?」という結論が見えてくると思うのです。
現代人は動かないことで腰痛になっている
人間の筋肉は、動かないことで緊張し、硬く縮んでしまうという性質を持っています。
これは血行が悪くなることで起きる症状なのですが、実は、この筋肉の緊張が、腰痛を引き起こしている根源的な原因なのです。
先ほど、「現代人は動かないことで腰痛になっているのではないか?」と書きましたが、まさにその通りなのです。多くの専門家が指摘している腰痛の原因と、現代の生活のスタイルが、完全に一致しているのですね。
このように、昔の生活と現代の生活を比べてみると、より一層、腰痛の原因が浮き彫りになって理解できるのではないでしょうか?
昔の人は、生活に追われて大変だったわけですが、その分、腰痛になるリスクは避けられたのです。
江戸時代には腰痛の概念すらなかったそうなので、やはり腰痛は、便利になりすぎた社会の現代病だと言えるのだと思います。
ちなみに、昔は腰痛になったら安静にするのが一番と言われていました。しかし現在では、腰痛は安静にし過ぎるとかえって悪化するというのが定説になっています。
動かないでいると、腰部の筋肉がさらに緊張してしまうためです。
なるべく体を動かす
結論としては、腰痛の一番の改善方法は、「なるべく体を動かす」ということになります。個人差はありますが、基本的にはそのように考えて良いのだと思います。
「ちょっと長く椅子に座り続けているな」と感じたら、立ち上がって軽く体を動かしてみる習慣を身に付けるだけでも、腰痛の改善効果はあります。
但し、腰が痛い状態で、筋トレなどを始めたりすると、逆に弊害が出る恐れがあるので注意してください。そのような激しい運動ではなく、散歩の習慣などを取り入れてみるのも良いでしょう。
立ち上がったり、歩いてみたり、軽く伸びをしてみたり、そうした基本的な動作を生活に多く取り入れてみることをお勧めします。
遠回りな腰痛改善の方法に思うかもしれませんが、「なるべく体を動かす」という考えを、頭の隅にでも入れておいてください。
それだけでも、その後の結果が大きく違ってくるのだと思います。