腰痛には心の問題も関与していると聞いて、私も最初はピンと来ませんでした。
よく「心が痛む」と言います。でも、それは文学的な表現であって、腰痛は心の問題ではなく、腰のどこかに異常があるから痛んでいるわけです。
実際に強い痛みを感じているのですから、よく分からない心の痛みとは思えません。
しかし、私たちはストレスを感じると、胃にチクチクとした痛みを感じます。また、痛いと思っている箇所に触れられると、本当はそれほどでもないのに、過剰に反応して痛いように感じます。
心の状態によって、具体的な痛みを感じる経験を、私たちはしているのです。
長く治療を続けているのに治らない腰痛には、「心因性の腰痛」を疑ってみる必要もあるのではないでしょうか?
思い当たる人は、ぜひ続きをお読みください。
心療整形外科という考え方
近年になって、腰痛にも心の問題が取り上げられる機会が増えています。病院に行くと、腰痛は整形外科で診察を受けますが、今では「心療整形外科」という言葉も使われています。
体だけの治療ではなく、「人間の心の状態によって引き起こされている痛み」にも、しっかりと目を向けようという考え方が、整形外科にも求められ始めています。
加齢による骨の変形は、普通に見られる
病院でレントゲンを撮ってもらったら、「腰椎が変形して少しずれている」「腰椎が老化して椎間板が狭くなっている」などと告げられた人も多いと思います。
神妙な面持ちをした白衣の先生から、その証拠となる画像を見せられて言われたら、「やはり、そうか! でも、どうしよう。手術しなければ駄目なのか…」と不安になりますね。
但し、本当はそんなに慌てる必要もありません。人間は30歳を過ぎた辺りから、骨が出っ張ってきたり、椎間板がずれたり、変形したり、狭小化したりすることは、多くの人に普通に見られることなのです。
このような変化(医学的には「変性所見」と呼ばれる)は、「顔にシワが出来るのと同じようなもの」と説明している整形外科医の先生もいます。
しかし、患者は腰が痛くて病院に来ているわけですから、その原因を知りたがります。
実際に、異常が見つかったのは確かなので、それが原因で腰痛になっていると考えたほうが、先生も説明がしやすくなり、それを聞いた患者も納得します。
変な話ですが、何かしらの病名を付けたほうが、両者がともに良い関係でいられるわけです。
患者の不安が残ると、それが新たなストレスになる
但し、先生と患者の良い関係が成立しても、その結果が悪い方向に向かってしまったら意味がありません。
腰痛の原因が分かると、とりあえず患者は安心するものですが、中には必要以上に重く受け止めてしまう患者もいます。
「このまま仕事ができなくなるのではないか?」「手術をしないと治らないのではないか?」「一生痛みから逃げられないのではないか?」など、悪い方向にばかり考えが集中してしまう人もいるのです。
そんな患者の気持ちを察して、不安を取り除いてくれる医者もいますが、整形外科医の仕事は体を治療することです。通常は心のケアまではしてくれません。
しかし、患者の不安が残ったままになると、それが新たなストレスとなり、心因性の腰痛になってしまうならば問題です。
そこで現在では「心療整形外科」という考え方が生まれてきたわけです。そもそも心因性の腰痛とは、どのようなものなのでしょうか?
心因性の腰痛に、どのように向かい合えば良いか?
日本整形外科学会のガイドラインでは、腰痛の原因の85%は非特異的腰痛であり、要するに、明らかな原因が分からない腰痛とされています。
しかし、これは全く原因が分からないという意味ではなく、「原因を一つに特定できない」という解釈で捉えたほうが正しいのです。
具体的に言えば、手術で原因を取り除いたはずなのに、腰痛が治らなかったという事例などもそうでしょう。画像検査で発見された椎間板のズレなど以外にも、他の原因があったということです。
この他の原因は、体の原因だけでなく、心因性によるものかもしれないのです。
整形外科医でも自分の腰痛の原因を特定できなかった
「心身一如(しんじんいちにょ)」という、仏教用語があります。これは精神と肉体は分けることができず、一つのものの両面であるという見方です。体と心は、独立して存在しているわけではないのです。
医学的にも、体の痛みに「心理的な要因」が入り込んでいることは認められています。
とはいえ、体の痛みのメカニズムでも不明な点が多いのに、見えない心の要因まで加わると、ますます痛みの原因が分からなくなってきますね。
腰痛の専門家である整形外科医が書いた本に、「自分自身が腰痛になった時に、原因が分からずに不安になった」というような内容が書かれていました。
しばらく経って、知らない間に痛みは消えたそうです。でも、自分の持てる医学知識を総動員して考えてみても、「あの時の腰痛の原因は何だったのだろう?」と、今も原因が分からず終いなのだそうです。
医者はストレスが掛かる仕事でしょうから、目には見えない心因性の要因が関与していたのかもしれません。そうだとすると、心因性の要因は、専門家でさえも気付かない場合があるのです。
劇的に腰痛が改善した経験
私にも思い当たることがあります。私が腰痛(椎間板ヘルニア)になったのは、2014年の夏になりますが、予想を遙かに超えて長引いてしまい、それ以降も一年ほど苦しみ続けました。
一時期は、手術しなければ、もう無理だとも覚悟しました。もちろん、手術なんて絶対に嫌です。でも、手術によって決着が付くならば、それも悪くないとも思えてきます。
痛みとの戦いに疲れ果てて、なるようになれという感じで、すっかり心が萎えていたのですね。
しかし、ある夜、いつものように情けない気持ちで過ごしていると、「この腰痛にも意味があるのだ」という考えが、不意に心に浮かび上がりました。何の脈絡もなく、全くのインスピレーションのようなものです。
私は「この腰痛に、何か意味があるのか?」と考えました。普通ならば、悪い意味しか考えられません。
でも、私は自由に動けない身になってから、ようやく始めて、自分が生かされていることの感謝に思いを馳せることができたのです。
具体的に言えば、自分を苦労して育ててくれた両親への感謝や、今まで接してきた人たちへの感謝です。
すると、その日を境にして、劇的に腰痛が改善していったのです。これは本当の話です。詳しくは下記をお読みください。
脳は「体の痛み」と「心の痛み」を区別しない
それまでの私は、単に痛みとの戦いにしか心が向いていませんでしたが、それ以降は、前向きな気持ちで腰痛の改善に取り組めるようになりました。
勉強すればするほど、腰痛は自分で治せる病気なのだと分かってきます。そうなると心に抱えていた不安が、徐々に希望へと変わっていきます。
その心の変化こそが、実は、心因性の要因を取り除く結果になったのではないでしょうか?
痛みに対して不安な気持ちを持っていると、痛みをより強く感じさせてしまうメカニズムが働きます。心理的な要因は、直接的に、痛みに関与しているのです。
最近の研究では、脳は「体の痛み」と「心の痛み」を別個に認識したとしても、次第に両者が混じり合い、その区別できなくなるという報告がされています。
心の痛みを、あたかも体の痛みとして感じてしまう現象が起きるわけです。「心が痛い」も、あながち文学的な表現の比喩ではないのですね。
気持ちの問題は、現実的な問題
医学的にも、心因性の腰痛があることは分かっています。
但し、これは個人の心の問題にまで踏み込んでいくことになります。医者としては、腰痛患者に精神科のカウンセリングのような真似はできないでしょうし、目に見えない心理的な要因に対して、「これが原因です」と明確に指摘することも難しいと思います。
このため、心因性の腰痛は医者に頼るよりも、自分で解決しようと思ったほうが早いのではないでしょうか?
具体的な原因は分からなくても、今の自分の心を変えると、自然に原因が消え去るという現象は起きるのです。暗い部屋に明かりを付けると、パッと一瞬にして闇が消えるのと同じです。
自分の体験でしか言えませんが、痛みを生み出しているマイナスの感情を取り除く一番の方法は、感謝の気持ちを持つことだと考えています。
心の中に潜んでいた痛み成分を、一瞬で洗い流してしまうほどの力が、感謝の気持ちにはあるように思います。
今現在も、様々な腰痛改善に取り組んでいる人が多いと思いますが、「どうせ治らないだろうな」という後ろ向きの気持ちではなく、もっと前向きな気持ちで取り組んでみてください。
なかなか治らないと嘆くのではなく、昨日よりも少し痛みが消えたと感じたら、「よかった!」と感謝したほうが良い結果を生みます。
気持ちの問題は、現実的な問題です。目には見えなくても、やがて何かの形になって現れるものです。この記事が、あなたの何かしらの参考になれば嬉しいです。